広告ブロックアプリの影響がほぼゼロの理由
iOS9が先月リリースされ、iPhoneなんかで広告ブロックアプリが出て導入できるようになりましたね。
最近では、日本のサイトや広告に対応した「Ad(アド)バスター」(「AdBlock(アドブロック)」という名称から変更)というアプリも出てきて、当分はこの話題は尽きなそうです。
実際、iPhoneに「Adバスター」をインストールし、サファリ(iPhoneなんかに最初から入っているブラウザ)で「コンテンツブロッカー」を設定した上で、サイトを見ると、Googleの検索広告も、ヤフーのインフィード広告(ネイティブ広告)も簡単にきれいに消去してくれます。
さて、こんなアプリが出てきてしまうと、ネット広告で集客をしている広告主や、広告を商売にしている人たちは脅威に感じてしまうかもしれません。
「スマホの半分を占めてるiPhoneに広告出せなくなっちゃうの? マジ? 売上半減?」
という感じですね。
アドセンスで収入を得ているアフィリエイターや、ニュースサイトやメディアの運営者も心配でしょうね。
また、広告ブロック機能を入れることでGoogleアナリティクス(アクセス解析ツール)も計測できなくなる、ということですから、WEBマーケティングに関わる仕事をしている人は困りそうです。
しかし結論から言えば、この日本おいて、広告ブロックアプリ(広告ブロッカー、もしくはコンテンツブロッカーとも言います)の存在はまったく心配する必要はありません。影響はほぼゼロに等しいですし、将来にわたって不確実性としてのリスクはないと断言してよいと思います。
正直、広告ブロックアプリの話題を気にかけている暇があったら、よい広告、よい商品サービスをつくることに集中した方がよいですので、これ以下のコンテンツは読んでいただく必要もないんですが、一応根拠は説明しておきましょう(数字の情報元リンクなどは記事末にまとめています)。
※この記事の論点は「日本において広告ブロックアプリはどれくらい広まるのか? 対策は必要なのか?」というところだけです。「なぜアップルはこんなことをするのか?」「海外ではどうなのか?」といった論点は扱いません。
※「広告が嫌いな人」「広告がウザいときもあること」自体を否定するものではありません。
広告ブロックアプリの影響がほぼゼロの理由
1)そもそも「アプリ」というマーケット(市場)は限定的。現実的な広告ブロックアプリの普及率上限はせいぜい1~2%
この広告ブロックが話題になったときに、「ものすごく広告ブロックアプリが広がって、広告が出せる範囲が際限なく狭まってしまう」と煽る大手メディアの記事をよく目にしました。
これについては、もうライターさんの見当違いもいいところであって、そもそもスマホにおける「アプリ」というものが、「多くの人にインストールしてもらうことがどれだけ大変なのか」ということがまったくわかっていない人の意見だと思われます。
実際、「スマホにおけるアプリがインストールされる可能性」については、WEBに落ちてる情報だけでも、かなり精度の高い予測を、数字で出すことができます。
順を追って説明しましょう。
まず、そもそもスマホというのは、日本人にどれだけ普及しているのでしょうか。
これは概ね6,800万台が契約されています。これに2台持ちの人を考慮すると、だいたい6千万人くらいと言われています。
で、この6千万人に、アプリを入れてもらう可能性の上限はどれくらいあるかというと、これもググればすぐ出てきますが、LINEやFacebookといったインフラに近いコミュニケーションアプリを除けば、パズドラの3,600万ダウンロードというのが最高でしょう。
パズドラのように、社会現象にもなり、CMがガンガン流れ、小学生から女子高生女子大生、果てはおっさん、爺さんまで巻き込む究極のアプリですら、スマホにおける普及率は60%程度なのです。
私が記事冒頭に、「広告ブロックアプリの影響なんて気にする必要一切なし」と言っている意味はわかるでしょうか。
そもそもスマホにおける広告を出稿できる範囲を100%とした場合、iOSの利用率はほぼ50%です。これに「アプリがインストールされる可能性最大値を60%」とざっくり定義するなら、この時点で30%まで下がってしまいます。
理論上の予測最大値を取ってもこの程度なんですから、実際の可能性はこの時点でものすごく低いという予測がすでにできます。
次に、じゃあ広告ブロックアプリは実際に、パズドラのように大流行するほどダウンロードされる可能性があるのか?ということを考えましょう。
現実には、パズドラやモンストのような3,000万ダウンロードされるようなアプリは極めて希というか珍事であって、各社が巨額の費用をかけて開発し、大々的な宣伝をしかけても、1,000万ダウンロードはまずいっていません。
上場しているアプリ開発会社の決算書を見ればすぐわかりますが、500万~600万ダウンロードで「かなりの大ヒット」といわれるレベルで、全アプリの1%以下なのだそうです。つまりアプリ普及率10%ですら、途方もなく難しい事、というわけなのです。これにiOS比率50%を掛ければ、もう5%まで下がってしまいました。
しかしこのアプリ普及率5%すら現実的ではないでしょう。なぜなら、これらのヒットアプリは、すべからく「無料アプリ」であって、現在有効機能している広告ブロックアプリのように、インストールするには課金が必要な「有料アプリ」ではないからです。
そこで、「有料アプリ」としての現実の数字を見てみましょう。
広告ブロックアプリとして、「Crystal」や「Adバスター」というものがありますが、注目されたのは、App Storeの有料アプリランキングで2位とかになったからですね。
では、この有料アプリランキングの1位になると、日本ではどれだけのダウンロード数になっているのでしょうか。
これもある程度情報は公開されていまして、1日7千ダウンロード程度、となっています。
2位以下になると、実際は1日2千程度なようです。
Crystalというアプリは、1位になったのは一瞬ですが、2週間ほど有料アプリランキングの5位以内にはいましたから、2万~3万は確実にダウンロードされたことが推測されます(推測というかApp Annyというツールでダウンロード数はほぼ把握できました。この範囲内です)。ただし、その後はランキングトップ100には入っているものの勢いはなくなっていますので、どれだけこの後ダウンロードされたとしても10万程度がせいぜいでしょう。実際に「Crystal」の開発者がインタビューに答えていて、ダウンロード数は全世界で20万だそうです。
また、日本のサイトに対応した広告ブロックアプリ「Adバスター」も、有料アプリランキングで上位に来ていますから、1日2千程度はダウンロードはされていることでしょう。
しかし、これがどれだけ続いたとしても、月間で6万。年間で72万です。
つまり、72万(インストール数)/6000万(スマホ保有者)=1.2%です。実際には、この「Adバスター」というアプリが、来年までずっとランキング上位でいることはほぼ考えられませんし、インストールされた後、そのアプリを動作させない確率も相当あるのですが、かなり可能性の上限を考えても、たったの1.2%に過ぎないわけです。
理論上最大値30%(パズドラ級)→無料アプリとしての実質上限5%(上場開発会社大ヒット級)→有料アプリとしての実質上限1.2%と、ここまで下がってしまいました。
さらには、これらのアプリが複数流通し、まかり間違って100万人に広告ブロックアプリがダウンロードされたとしても、1.6%です。まあはっきり無視でよい数字といえるでしょう。
現実的には、広告ブロックアプリが稼働した状態の普及率は、将来においても日本においては、私は1%以下だと思います。まあ、0.5%から0.8%といったところが妥当なんじゃないですかね。
ちなみに、Androidでも広告ブロックアプリはたくさんありますが、もちろん日本で何百万ダウンロードされているようなものはありません。
また、広告ブロックアプリが「有料」ではなく、「無料」として完成度の高いアプリが出てくる可能性はほぼゼロでしょう(「無料」の広告ブロックアプリもすでに存在している)。無料となればまさにそのアプリが「広告」で稼がなければならなくなるわけで、こんな自己矛盾を突き進められるアプリ開発者は少ないでしょう。
2)広告ブロックの需要はとてもマニアックなニッチ市場
さらに言うと、そもそも、「広告が見るのも嫌い」な人、というのは大きな市場ではありません。
例えば、「私は新聞折り込みチラシは反吐が出るほど嫌いなので、見ないで全部捨てます」なんて主婦の話を聞いたことないでしょう?
あるいは、「雑誌の広告を見るとムカついてしょうがないので編集部に強烈にクレームの電話入れてやった」なんて話も私は一生のうちに一度も聞いたことがありません。
仮に広告がウザい媒体なのであれば、読者はその媒体を見なくなる、購読しなくなるだけです。スマホであっても広告そのものを消し去ろうなんて発想は一般的にはしないものと私は思います。
また、広告を見せないようにするソフトは、PCの世界でもずっと前から存在していました。
実際私も入れてみたことはありますが、必ずなんらかブラウザの不具合(広告以外のコンテンツに影響を与えてしまう)があるので、すぐに使うのはやめてしまいました。
日本でも、PCへの広告ブロックのソフトインストール率は2%程度のようですが、仮にこれだけの広告ブロックがされていても、PCで広告ブロックの影響が話題になることはまったくないでしょう?要するに気にするレベルじゃないということです。
でも、「スマホだから広告がすごく気になる」という要素は、確かにあると思います。画面に対する広告の割合は高くなりますしね。
しかし、そもそも広告ブロックするソフトやアプリというのは、「そのサイトの制作者の意図に反した表示を強制的にさせる」という意味で、ちょっと脱法性を感じさせるようなアングラ感の漂うものですよね。一般的な感性からすれば、「これって入れてもいいものなのかな?」と考えるはずなのです。
アプリが500万とか1000万ダウンロードされるというのは、相当に市場が広がっている状態であって、女子大生とかキャバクラのお姉さんとかも話題にするようなレベルと考えて良いでしょうけれども、
「ねぇねぇこの広告ブロックアプリ、すごいイケてない?」
「え~ウケる!Googleの検索広告もばっちり消えてるじゃん!」
なんてことを、ファミレスで女子高生が会話してるところなんて、到底想像できないでしょう?
もしも、「広告ブロックアプリは、数百万以上ダウンロードされるほど、流行するはず」と考える人は、ぜひ、自分のお子さんや奥さんとか、従姉妹の大学生とかに「この広告ブロックアプリって興味ある?」と聞いてみるといいですよ。
まず「インストールしてみたい」という反応はないこと、間違いなしです。
3)そもそも広告ブロックアプリをいれるような人はお客さんではない
というわけで、ほとんど広告ブロックアプリの影響なんて無視してよいレベルの話なんですが、それでも1%=何十万人に広告を見てもらえない、というのは気になるかもしれませんね。
しかし、これも全く気にする必要ありません。
そもそも、「広告ブロックアプリを入れてまで、一切広告を見たくない」という人に、広告を見せても意味がないからです。
そういう人たちは、広告に対して基本的に不信感や嫌悪感をもっているわけで、広告を表示させてもそもそも見てくれませんし、広告をクリックもしません。仮にクリックしたとしてもコンバージョンしないでしょう。要するにお客さんじゃないんですよ(すでに広告ブロックアプリを入れている人すみません。。。)。
むしろ、「単なる押し間違えクリック」が減って、コンバージョン率やCPAの向上に役立ってくれるのではないでしょうか。
そういう意味でも、私は広告ブロックアプリを入れたい人は、どんどんインストールしてもらえばよいと思います。
前述のAdバスターは動作も軽く、シンプルでわかりやすくよくできたアプリです。海外製の広告ブロックアプリCrystalはiOS9の新機能リリースチャンスを活かし、このニッチな市場の需要に応えることで、さくっと2千万円ほど売上げあげたそうです。素晴らしいことじゃないですか(皮肉じゃないですよ)。
ちなみに、デジタルテレビとハードディスクレコーダーによって、「1日中丸ごと録画」ができる時代になった今、テレビCMは事実上、スキップ(ブロック)され放題なのですが、テレビ視聴者が減り続けている逆風の最中、驚くことにテレビCMの市場はここ3年連続で伸びています。CMを見る人がスキップで10%以上減る、といった事態になっていたらこんなことはもちろん起きません。
もうおわかりですよね。広告をブロックしたい、という需要は確かに存在します。しかし、その市場規模はとても小さいものなのです。
まとめ
以上の話を、まとめるとこんな感じです。
・広告ブロックアプリの普及率は、ほぼ確実に最大値で2%以下
・そもそも広告ブロックする市場はマニアックなニッチ市場
・そもそも広告ブロックする人に広告を見せても意味がない
とまあ、こんなわけで、広告ブロックのアプリの影響は無視していいレベルですし、対策などまったくする必要もないと考えられます。
広告ブロックアプリよりも私たちが考えなければならないこと
でも、スマホにおける「広告はどのようにあるべきか」という将来像は気になりますよね。
これについては、考えるべきことははっきりしていします。
「広告を掲載する媒体はユーザーから”広告が邪魔だ”と思われないサイトを目指すこと」
「広告を出稿する仕事をしている人は、質の低い広告の出し方をしているサイトに広告を出さないようにする、あるいは正確なターゲティングと質の高い広告によってユーザーから『すばらしい情報提供をしてくれた』と感じさせるほどのものにすること」
ということに尽きるのではないでしょうか。
広告は、時には人の人生を変えるほどの力すら持っている、素晴らしい社会貢献だと私はいつも思っています。広告ブロックの影響は気にせずに自信と誇りを持っていい仕事を積み上げていきましょう。
●おまけ
今回は、「広告ブロックアプリはどれくらい広がるものなのか?」という論点に絞りましたが、「なぜアップルはこんなアングラなアプリを公式に認めるのか?」「そもそもアップルがOSで広告ブロックするような機能をつけるのではないか?」「スマホの広告による通信料やスピードの問題は残るのではないか?」といった疑問や心配は多くの人が考えるでしょう。これも記事として今後取り上げてみようかと思ってます。
●取材御礼
当記事は、アプリマーケティング研究所の鶴谷さん、某アプリ開発会社のW氏、K氏にご協力いただきました。貴重な情報とご意見ありがとうございました!
アプリマーケティング研究所 | アプリビジネスを行う人のためのマーケティング情報サイト。アプリマーケティングに役立つ記事を発信
●参考リンクおよび推定値算出に使った情報ソース
【検証1】iOS9の広告ブロック機能は、運用系広告の脅威となるのか?【150921更新】 – でぶててのWEB録
App Annie – アプリ分析とアプリデータのスタンダード
グーグル激おこ。iOS9の広告ブロックに世界中が揺れている – NAVER まとめ
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