決してバラ色の未来ではないヤフーとGoogleの提携話
ヤフージャパンと米Googleの提携に関して。
要するに、
ヤフーがGoogleから技術をOEM提供してもらって、
外側はヤフーのままでエンドユーザーに提供する、
という形になったということだ。
基本的には、
検索キーワード広告(リスティング、PPC)を、
使って売上・利益を上げている企業、
あるいはそれを生業にする者たちからすれば、
長い冬の時代が一応終わりを告げて、
ひとまずは春が訪れたという感覚だろう。
●3つの良い点
2009年初頭ごろより、
Yahoo!リスティング広告(旧オーバーチュア)のシステムは、
エラーが頻繁に起こり、
残念ながら信用して使うことができない状況がずっと続いていた。
ヤフーの広告システム投資に関する意欲はまったく感じられず、
「ヤフーはキーワード広告のASP提供を、
やめてしまうのではないか」
という最悪の予測もしていたくらいである。
Googleアドワーズのシステムが入り、
安定した広告出稿ができるようになるのであれば、
短期的には、
誰にとってもよいことではある。
また、
広告主や広告代理店としては、
管理画面における、
キャンペーン数や広告グループ数、
広告文の文字数、
コンバージョンの定義の違い、
などの大きな違いがある二つの広告システムを、
同じくらいのパワーを注いで運用する必要がなくなるので、
効率的になることは期待される。
特に、
「1キーワード1広告グループ」
のアカウント運用をしなければ競争に勝ちにくくなっている現状では、
ヤフーリスティング(旧オーバーチュア)の、
少ない方のシステム制限に合わせなければならない制約は、
極めて非効率だった。
※
Googleアドワーズ=
キャンペーン数の上限25個
1キャンペーン内の広告グループ数の上限2,000個
ヤフーリスティング=
キャンペーン数の上限20個
1キャンペーン内の広告グループ数の上限1,000個
(ただし、
このようなシステムがアドワーズのものに、
完全に移行するかどうかは現時点ではわからないが)
さらには、
ヤフーリスティング(旧オーバーチュア)は、
MFOという大問題を抱えているので、
これも解消できるのなら、
CPAを1円でもいいから下げたいと願う広告主にとっては、
朗報だ。
(だからといって放置は許されないが)
●決して未来はバラ色ではない
ただ、
残念ながらこの提携によって、
明るい未来が開け続けるかというと、
必ずしもそうではない。
まず、独占禁止法の問題。
公正取引委員会に確認済み、
とプレスリリースに記載があったが、
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」
には、
「独占的状態に対する規制」
というものがあって、
1社による市場の独占を禁じている。
「独占的状態」とは、
同種または類似の商品又は役務の国内で供給されたものの価額が
一定の水準を超えた場合において、
その商品役務等に係る一定の事業分野において,
次に掲げる市場構造及び市場における弊害があることをいう(8条の4)
「1年間において、
一の事業者のシェアが50%を越えるか2の事業者のシェアの合計が75%を超えること」
実質的に、
Googleとヤフーで検索エンジンの95%以上のシェアがあるわけで、
検索キーワード広告の事業をGoogleが独占することになるのであれば、
明らかな違法となる。
このへんに考慮してか、
プレスリリースでは、自社広告は続ける、
と強調されている。
「Yahoo!JAPAN は、
検索ページや検索サービスを今後も自ら運営していくことはもちろんのこと、
検索連動型広告においても、広告主が希望するキーワードに値段を付け、
オークション形式により広告の掲載可否や順序を決定する場である
「マーケットプレイス」を、これまでどおりYahoo! JAPAN 独自のものとして
維持してまいります。」
したがって、Yahoo! JAPANとグーグルは、
広告と検索サービスを含むすべてのサービスにおいて、
今後も競い合う関係であることに変わりはありません」
アメリカでは、
ヤフーとGoogleは提携をしたかったのだが、
独禁法の問題で、断念せざるを得ず、
結局ヤフーはマイクロソフトと手を組んだ。
アメリカではNGで、
日本ではOK、
というのは、
グローバルなネットビジネスにおいて、
明らかなダブルスタンダードであって矛盾が生じる。
マイクロソフトは何らかの動きをすることは、
確実であると思われる。
独占とするか、しないか、ということに関しては、
司法関係者からすれば、
難しい判断をせまられることになるだろう。
ちなみに、
公正取引委員会は「行政」であって、
「司法」ではない。
行政の判断は司法に裁かれる立場にある。
薬事法の問題では、
行政ばかりか司法にもはじかれたネットビジネスだが、
検索エンジンの問題では、
どうなるのかは注目したいところである。
また、
広告主にとっては、
システムの安定が必ずしも、
「CPA(顧客獲得単価)の良化」
に即つながるわけではない。
Googleはヤフーよりも、
広告主からバランスよくお金を取るのが上手なので、
ヤフーの信用力と、
Googleアドワーズのシステム力で、
低コストでお客がたくさんとれるようになる、
とは短絡的には考えはしないほうがよい。
下位との入札単価が大きく開いている場合、
Yahoo!リスティングとGoogleアドワーズでは、
どちらが多くクリック単価が加算されるか、
という私たちが行った仮説検証では、
Googleアドワーズの方が高かったテスト結果もある。
さらには、
事実上の1社独占によって、
Googleの技術力が劣る危険性は、
なくはないだろう。
アドワーズが平日の昼間に長時間アクセスできなくなる、
という事態が昨年起こったが、
いままではこのようなことはあり得なかったし、
出るべきキーワードに広告が出ない、
などのエラーは、
数年前よりも目立つようになっている。
複雑で高度なシステムを、
次々とひとつの管理画面で統合しようとしているので、
これは無理のないことかもしれないが。
いずれにしても、
競争がなくなって楽に稼げるようになれば、
努力をしなくなるのはどんな企業でも、国でも、個人でも、
同じである。
(そのために独占禁止法という法律がある)
短期的には、
ヤフーがGoogleの技術を採り入れることは、
サービスプロバイダー、
広告主、
検索ユーザー、
の三者だれにとっても有益だと思われるが、
5年以上の中長期スパンを予測した場合には、
不安要素も多いことは否めない。
検索エンジンビジネスにとって、
いや、
インターネットビジネスにとって、
大きな転換点になった今回の提携。
今後も、
「あり得ない、なんてことはあり得ない」
事態は続きそうである。
参考リンク
連動型広告の配信システム変更に関して、発表後にお寄せいただいた代表的な質問とその回答について
http://blogs.yahoo.co.jp/listing_ads/16900740.html
Google日本公式ブログ
【Yahoo! JAPAN のより良い検索と広告サービスのために】
http://bit.ly/9yk1X0
ヤフーのプレスリリース
【Yahoo! JAPAN の検索サービスにおける
グーグルの検索エンジンと検索連動型広告配信システムの採用、
ならびにYahoo! JAPAN からグーグルへのデータ提供について】
http://bit.ly/a1o8bO
ヤフーのプレスリリース
【よくある質問】
http://i.yimg.jp/images/docs/ir/release/2010/jp20100727_2.pdf
Yahoo!リスティング公式ブログ
【検索連動型広告「スポンサードサーチ」強化のための広告配信システム変更について】
http://blogs.yahoo.co.jp/listing_ads/16807614.html